ちょっと待った!シリーズ―弁護士さん 大丈夫!

1、弁護士さんは「嘘」をいうの?
  大相撲の日馬富士の殴打事件で、被害者の貴の岩が損害賠償を請求したものの、その訴を取り下げたことが情報番組で採りあげられた。
  議論の中味は割愛するが、その中で双方の代理人弁護士の書簡が採りあげられ、公開された。双方の書簡の中味は全く相反しており、「真実は1つ」ではないのか?と呆れ果ててしまった。
  また、寝屋川事件が裁判員裁判の初公判を迎え、被告人が記者団に面会して話題になっているが、この中で、被告人は弁護士に何もしゃべるな!と言われている、と告白した。真実の発見と社会正義の実現が使命の弁護士さんは、一体何をしているのだろうと思ってしまう。
  
2、「正義と公正」
最高裁判所に飾られている「テミス像」をご存じだろうか?
右手に「剣」を掲げ、左手に「天秤」を持ち、目隠しなしの女神像である。剣は力を表し、天秤は正邪を測る正義を象徴しており、「剣無き秤は無力、秤無き剣は暴力」に過ぎず、正義と力が法の両輪であることを表しているそうだ。
さらに、この女神には、目隠しなしのものと目隠しをされているものがある。当初は、目隠しはされておらず、全体を見通して「公正」な判断を下す女神の意味であったが、16世紀以降、目隠しをされている像が主流となり、その意味は、彼女の前に立つ者の顔は見ないことを示し、法は貧富や権力の有無にかかわらず、万人に等しく適用されるという「法の下の平等」の法理念を表しているのである。
そして弁護士バッジをみると、ひまわりの真ん中に天秤があるバッジで、ひまわりの花は「自由と正義」の象徴、そして天秤は「公平と平等」を表しているそうだ。
そのバッジに恥じないように、弁護士法11項には「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」ことが定められている。
 
3、弁護士の不祥事
  手許に、20161年間に起こった弁護士の不祥事一覧表がある。
  少し紹介すると、69歳弁護士 警官から免許奪い逃走 新潟。大阪の女性弁護士 500万円の恐喝容疑。5億円超横領詐欺弁護士に懲役13年求刑。性行為を強要 弁護士に弁護士会退会命令。依頼者の女性にわいせつ行為。弁護士の預り金3000万円の横領。窃盗容疑の弁護士 懲戒処分。等々「窃盗」「詐欺」「事件放置」「虚偽報告」「ひき逃げ」「児童買春」の花盛り。弁護士会から懲戒処分を受ける件数も年間100件を優に超えるようになったそうだ。
弁護士も人間、と言えば、普通の社会と何ら変わらないのは当たり前であるが、それでは、何のために「正義と公正」のバッジをつけているのだろう、と思ってしまう。
 
4、弁護士を取り囲む環境
  どうして、弁護士がこのような低堕落な状況になってきたのだろうか?
  思うに、司法改革の一環として、新司法試験の導入が大なり小なり、影響していると考えた。
  すなわち、年間500~600人程度の合格者が、1度に3000人以上の合格者を出し、弁護士業界の構造に大きな変化を齎した可能性がある。今まで、「弁護士」というバッジを付けていれば、悠々自適の生活が保証されていたのが、一挙に過当競争に陥ったのである。
  生活していくためには「何でもアリ」の様相を呈し、弁護士事務所が、司法書士でもできる「過払金」訴訟を宣伝せざるを得なくなってきた。横領、詐欺等の要因の1つになったのかもしれない。
  したがって、一旦弁護を引き受けたからには、何が何でも「成功」が必須で、そこに「正義と公正」「真実の発見」「社会正義の実現」というのは、どこかに飛んで行ったのではないだろうか!!
  「世間のすべてを敵に回してでも依頼者の利益を追求する」のが弁護士であると公言する人もいる。そもそも“世間の全てを敵に回す”という職業倫理が既に「正義と公正」からかけ離れているのだが、そんなことでは刑事事件の被告人の弁護などできない、と反論があるかもしれない。
しかし、冤罪でない限り、しかるべき「罰」を受けて当然で、その「当然」の罰が、世間が納得しうる範囲で、どこまで寛大なものにしてもらえるかが被告人側弁護人の役割であるべきだと考える。「正義と公正」を使命とする弁護士は、たとえ依頼者の利益になるとはいえ、真実を隠すことまでその職務として認められるはずが無い。
  
5、弁護士の質が低下したって本当?
  この傾向は、大量に司法試験の合格者が増えて、その質が低下したからだと考える人がいる。
確かに、弁護士の人数は、2006年に22000人だったものが、2014年には1.59倍の35000人まで増加している。一方、全述3の弁護士の不祥事をみると、懲戒処分数は、2006年には69件であったものが、2014101件と1.46倍で、弁護士数増加と比例しているように見える。
しかし、懲戒処分を受けた弁護士の年齢をみると、60歳代の弁護士が一番多く、次いで70歳代が続き、40歳未満の若手は全年代で最も少ないのである。合格率3%と言われる旧司法試験を合格した者たちである。
競争が厳しい中、「初心」を忘れ、「慣れ」に馴染んた既存弁護士の増加が懸念され、今後、誰も弁護士を頼らなくなるのを憂える次第である。