日本沈没ー日本の閉塞感・無力感

  前回(その4)では、経済界のうち一流製造メーカーの主にデータ改ざんを中心に経営者の小粒化を含め、その閉塞感・無力感を話したが、今回は、「金融」という物差しで考えてみたい。以下の要領で話す予定だが、小生の得意とする分野なので紙数が多くなる可能性があり、ご了承願いたい。

  1、昔のある都市銀行の風景
      「古き良き時代」と言われたある都市銀行の現場の風景を語ることによ
     り、今の金融機関が持ち合わせていない「何か」を見出すことができるか
     も、と考え、原点に返るつもりで語ってみたい。

  2、そもそも銀行の機能とその現代的意義
      金融仲介機能、信用創造機能、決済機能という銀行の役割を、現代的に
     見直し、本当にその役割は終わったのかを検証する予定。
   
  3、銀行の合従連合とメガバンクの現状と今後
      バブル経済崩壊後に訪れた「仁義なき組み合わせ」と思われる合併が行
     われたために、「昔の名前」を忘れてしまったかもしれないので、もう
     1度過去をお浚いし、そして現代メガバンク3行に収れんしてしまったこ
     との意義を問い直してみたい。

  4、銀行業の構造不況業種化の原因と検証
      一般的に、その原因と言われるのは、異次元の超低金利政策による利ザ
     ヤの極端な縮小にある、と言われるが、その他に、間接金融から直接金融
     への転換による企業の資金需要の減少、さらには金融技術の急速な進展に
     伴う構造変化などが揚げられている。その一つ一つを検証し、「本当にそ
     うだろうか?」を考えてみたい。

  5、今後の銀行経営の在り方に対する私見
      以上の考証から、私見を述べるが、基本的には「原点に返れ」である。
     いたずらに「収益」のみに目を取られ、非効率なものを一切省き、人員削
     減と店舗縮小に走る現在の銀行経営者に警鐘をならしたい、と考えてい
     る。

Ⅰ、昔のある都市銀行の風景
  1、入行当初の風景
      小生が銀行に入った(1973年)ばかりの銀行風景から語ろう。
      この年は、第一次オイルショックが発生し、従来のいわゆる「いざなぎ
     景気」を急激に冷やす事件が勃発した年である。卸売物価指数が消費者物
     価指数よりも高い上昇率となり、物価は上昇するが不景気であるという、
     いわゆるスタグフレーションに陥ったのである。
      そんな世の中のことは全く関係なく、小生は、東京の銀座に配属され
     て、意気揚々と新調のスーツを着こなして出勤したものであった。
      ところが、朝1番から始まるのが「整札」という作業である。これは、
     前日お客様から預かった紙幣を、紙幣種類ごとに百枚に束ねることだが、
     その間に古くなりすぎた紙幣、紙幣の端が縮れたり、切れたりした紙幣を
     選り分け、「損券」として日本銀行に送り返す作業である。ご存じだろう
     か? 意外と紙幣が汚れていることを。1時間以上作業を続けていると手
     が真っ黒になる。
      さて、やっと「整札」が終わったと思ったら、日銀から現金輸送車で硬
     貨が送られてくる。1万枚の各種の硬貨がそれぞれの麻袋に入っており、
     この1つの重さは米俵ほどの重量がある。そして、この重い麻袋から硬貨
     を「硬貨選別機」流し込み、50枚毎のブロックを作るのである。それ自
     体も結構時間がかかるが、厄介なのは、選別が終わった段階で硬貨が1枚
     器械に残っていることである。それは50枚ブロックのどれかが49枚と
     いうことを意味する。さあ~、これを見つけるのが大変である。これだ、
     と思ったブロックを破り、選別にかけるの50枚あり、また次の「らし
     い」ブロックを取り繰り返す。
      新調のスーツは全く必要なく、「本当に銀行に入ったのかな」と忸怩た
     るものがあったのを良く覚えている。
      さていよいよ退行時間と思ったら、今度はお店の「計算」が合わないと
     いう。すなわち伝票の合計と現金が一致しないことである。新人ももう1
     度現金(硬貨も含め)勘定し直し、「互明さん」の声がかかるまで、それ
     が深夜12時を過ぎようが続くのである。

      現在では、この風景は全く見られないはずである。システムが変わり、
     計算の合致はすべてコンピューターに任され、「合わない」という言葉は
     死語となっている。したがって、総合職の新人もいきなり営業から学ばさ
     れ、いわゆる「下積み」生活はないのである。
      無駄な時間だったように思われるが、小生にとっては、この時間は、
     「お金の大切さ・貴重さ」と同時に「お金の怖さ」を身に染みて学んだ時
     期ではないかと考えている。この時期があったからこそ優秀な銀行員
     (?)として、無事、終えることができたと思う。

  少し長くなりすぎたので、以下は明日ということで!!!
      
  2、東京郊外支店長のある1日
  3、旗艦店舗支店長のある1日と1週間
  4、原風景から見えること