スルガ銀行大研究(7)

6、するが銀行の現状を「どう」捉えればいいのか?
  (1)貸倒引当金問題の見方
     ・ 以上、財務的にスルガ銀行を見てきたが、おそらくスマートデイズ20184月、民事再生法を申請したが棄却され破産、負債総額60億円)他、不動産担保付ローン向け債権に対する引当として貸倒引当金402億円を計上した以外には、財務的に問題になっていることはない。問題云々よりは極めて好調と言った方が正しい。
     ・ したがって問題は、この貸倒を償却するための費用が、今後も続いていくかどうかの問題に尽きることになる。
     ・ そもそも貸倒引当金とは、貸倒損失によるリスクに備え、損失になるかもしれない金額を予想して、予め計上した引当金をいうが、実際に損失とはなっていない。将来に対する備えでしかない。
     ・ さらに、スルガ銀行は、貸出金の8090%が個人向けであるので、企業が民事再生あるいは破産した場合と異なることに注意が必要である。
       すなわち、倒産する企業の場合、その時点では殆ど資産らしい資産を持っていないのが普通であり、配当に加わっても、債権の23%程度の配当で、債権の殆どが焦げ付くことが圧倒的に多い。
       一方、個人の場合、消費者ローンの場合と違って、中々破産宣告に踏み切らない場合が多く、何とか返済を続ける。たとえ破産宣告をしても、担保の土地・建物は残っており、全額とは言わないが、債権の相当部分をカバーする。
     ・ このように見てくると、収益状況から考えて、それほど深刻なことはない、と断定する。かえって引当金相当部分が費用として認められるために、その60%相当(240億円)の節税が図られたといえなくもないのである。
 
  (2)独自の特色を生かし切れている地方銀行
     ・ 世間では、地銀をはじめ中小の地域金融機関が、環境の閉塞感の中で、生き残りをかけて、新たなビジネスモデルを模索しているのが現状である。
     ・ その中で、まるで「投資ファンド」と間違う金融機関を知った。高知信用金庫ある。そこで、普通の金融機関に近い地方銀行静岡銀行を加え、それぞれの損益計算書を見比べてみたのが、以下の表である。
 

                             (単位;億円)

 
高知信金
経常収益計

   1,563

   1,805

     354

貸出金利
 (貸出金勘定)
有価証券利息配当金
国債等売却益
株式等売却
役務取引等
その他
   1,254
(32,481)

      41

       4

      55

     133

      76

     918

(77,750)

     221

 

      31

     299

     336

      33

    (601)

      94

      43
     175
 

       9

         ※2016/3
 
     ・ 規模的には、大、中、小と異なるものの、その独自色が良く反映されている。上述のとおり、スルガ銀行は、経常収益の殆どが貸出金利息で、その貸出金も個人向けローンが大半である、という特色を持つ。
       一方、高知信用金庫は、貸出利息はその経常収益の10%にも満たないが、有価証券配当金や、国債・株式売却益が経常収益の90%近いのである。30年以上金融機関に勤めていたが、寡聞にして、このような金融機関があるとは全く知らなかった。昔気質の元金融マンとしては、結構「怖い」気がするが、独自の特色といえば、他と差別化を図った金融機関と言える。
     ・ このように見てくると、新たなビジネスモデルを構築している数少ない銀行が、スルガ銀行と言えるのではないだろうか!





7、今後のスルガ銀行は?


 (1)第三者委員会の調査報告書については、前回、その内容も含め批判を述べたが、ただ、銀行の内部統制については、すべて「正しい」とは思わないが、相当程度、「ガタついている」ことは間違いないようだ。


 (2)創業者一族の独裁と一族企業への不透明融資、コンプライアンスの欠如、人事評価制度の歪さと人事昇格等のラインの逸脱、経営陣の一角としての役員、あるいは社外役員の見て見ぬふりをする企業風土等、是正すべき事柄は多い。これを「普通」に戻すには結構な力仕事になり、このリーダーは銀行内から昇格した社長では無理である。


    かといって、銀行外からなら誰を持ってきてもいい、というわけではない。銀行の本質を知り、かつスルガ銀行の特色を「良し」と考える人材でなければならない。弁護士、公認会計士は実務を知らないからダメ、経営コンサルタントと称する者は、評論家になりきり責任が持たないからダメ、じゃー、現在の他の金融機関の役員連中はどうか、というと、器の小さい小粒の連中が多いので最良の策ではない。


    難しい!!!!


 (3)兎に角、ベストな人材を見つけ、この特色を生かして、金融庁をはじめ、メディアの評論家をみ返して欲しいものである。