日本沈没ー日本の中における「閉塞感」「無力感」まとめ⑥

 ・ 旗艦店舗の支店長の1日と1週間
       大阪の北のど真ん中の店に転勤となった。70年以上の歴史があり、しか
も合併銀行の宿命として、隣の大型店舗を吸収したばかりであったので、こ
の時期としては珍しく、店舗の行員は200名を超えていた超大型店舗であ
った。取引先も古くからの取引先が圧倒的に多く、それだけに取引先の業績
も極めて安定している製造業が多かった。
前任の支店長との引継ぎ期間は4日間となっていたが、1日30社を訪問
しても、とても間に合わず、殆どの取引先は電話での挨拶とのみとなった。
支店長室も馬鹿でかく、調度品も古くからの名品を置いていたらしく重厚な
雰囲気に包まれていた。
 
       朝の7時半に出勤。朝の間に昨日見残した融資案件等の決裁に済ます。8
時半、全体朝礼で、あまりにも人数が多いので、挨拶および注意事項もマイ
クを使う。9時、店のシャッターを開けるときは店頭に立ち、それから事務
各課の課長会議、続いて営業各課の課長会議と続く。引き続き午前中は、2
~3社訪問し、昼前にお客さまとの約束のランチを予約している店に直行す
る。
       あまりにも取引先が多く、先方にとっては2~3か月に1回程度のもので
あるが、こちらはほぼ毎日、どこかの取引先と会合を持つ。夜だけでは間に
合わず、ランチの時間も利用するのである。
       ランチの取引先を見送って、お店に帰り、案件の事前相談を行い、引き続
き午後のお客さまを3~5件訪問する。
終了すると6時、それから1時間程度融資案件等の書類決裁をし、夜の取
引先との約束の場に駆けつける。この場合、ほぼ1次会で終わらず、2次会
は当たり前、どうしても断れない場合は3次会まで付き合ったものである。
       このように、深夜に家路につき、考える暇もなくベッドのもぐりこむ毎日
でった。
「旗艦店の支店長は頭はいらない。体が丈夫で酒に強ければいいのか!」と自嘲していたのを覚えている。
       この取引先との会合は、土曜。日曜も続く。そう、ゴルフのお誘いで、月
のうち土曜・日曜の半分以上はつぶれることになる(それにしてはゴルフは
うまくならないのは何故だろう!)。
我ながら、体も壊さず、よく2年も続いたものだと、「自分で自分を褒めて
あげたい」心境になる。
 
このような光景も、今では殆ど「過去の遺物」として見られないのだろう。
しかし、ここまで付き合っていると、取引先の内情が非常によく分かる。幹
部・社員の言動、女性職員の笑顔等から、「あら、ちょっとおかしい」と感じ
るのである。今は全く取引先の内面どころか顔さえも知らない場合が多いの
であろうが、これでは、生きた本当の融資はできないものと自負している。
 
       もっとも「融資では儲からないから意味がない」といわれるかもしれない
が、後述するようにいつまでも逆ザヤが続くはずがない。その時になって
融資は、全面的にAIに頼るつもりなのだろうか?
 
     ・総 括
このように見てくると、確かに、本人も感じるほど「無駄」が多い時間を
使っていたように思う。金融技術の発達により手間が相当省け、その時間を
他に回すことができるのは、大いに歓迎する。
       しかし、その余った時間を何に使っているのか?ということが今度は問題
になる。
今もそうだが、従来から、銀行経営者は直ぐに人員整理を考える。(昔、企
業再建に派遣された銀行員の大半は、その企業の業種が何であれ、店舗の統
廃合、人員削減をその再建策の柱にしていた)
そうではなくて、昔のように取引先を本当に知る、あるいは理解する努力
      に使ってみてはどうだろうか。
商売の原点は、お互いの「信頼関係」とそれに基づく銀行の「信用」が
基盤となっていること、これなくしては存立基盤が無いことを肝に銘じてお
く必要がある。