日本沈没ー日本の中における「閉塞感」「無力感」まとめ⑨

 ④ 銀行等の構造不況業種化論とその要因の正否
      最近、3大メガバンクが店舗・人員の削減を発表してから、経済誌等に「銀
     行が消える日」等の内容で、金融業界は「構造不況業種」と言われるようにな
った。
そしてその「構造不況業種化」といわれている要因として、異次元の超低金
     利政策による利ザヤの極端な縮小、間接金融から直接金融への資金需要の減
少、金融技術の進展、が挙げられている。
1つ1つ検証してみる。
 
● 異次元の超低金利政策による利ザヤの極端な(大幅ではない)縮小
現在の金融政策が、「異次元」と言われるほど、大量の国債購入と0パー
セント金利を維持する中で、基本的には、金融機関は、従来の預金を集めそ
れを貸出に向け利ザヤを稼ぐ、という手法では儲からないのは自明の理であ
る。
したがって、金融機関は、急激な収益悪化に対し、新たな「儲かる戦略」を構築する必要に迫られた。
 
そもそも、この日銀の政策は、アベノミックスという安倍首相の経済政策
に呼応して、消費者物価指数2%の達成を目指し、デフレ脱却ために用いら
れた施策であるが、この日銀の金利政策に加え、金融庁が銀行に追い打ちを
かけた。
       すなわち、リーマンショックによる各銀行の不良債権を抑制しようとて、
金融庁は締め付けを強化し、結果として各銀行の預貸率は極端に悪化した。
そこで金融機関は融資に廻せないお金で国債を買い運用したが、日銀が大量
国債買付を実施し、国債相場が動かなくなった。そこで仕方なく、各銀行
は確実に高利回りで稼げ、総量規制から外れている個人の融資に傾注したの
である。
       金融庁も「優等生」と称賛していたスルガ銀行も、実は個人融資で稼ぎま
くっていただけなのである。そして金融庁は、今度の不正事件をきっかけに、
舌の根も乾かないうちに、この個人向け融資に対して締め付けに入ったので
ある。二枚舌もいいところ。
       これでは、各銀行とも出口を塞がれたと同じで、業界全体として「構造
不況業種」化してしまっても致し方ない、と考える。
 
(それを受けて最近の経済雑誌は、「銀行が消える日がやってくる」
「銀行破たん時代メガバンクが地方から消える日」「金を貸さなく
なった銀行が人員削減競争突入」というセンセーショナルな見出しで、
金融専門家と言われる人物に書かせている)
 
       実際に、メガバンクをはじめ各銀行とも、新たな手数料収入が見込める
業種にシフト(投資相談、相続相談等)するが、中々思うようにいかず、
「小粒化」した今の銀行経営陣は、常識的な銀行員の常として、経費の節減、
具体的には店舗の統廃合及び縮小と大幅な人員削減に走ったのである。
 
ちょっと待て!!!
 
       この異次元超低金利(マイナス金利)がいつまでも続く筈がないことを
忘れていないか!
実際に、日銀は金融緩和策の修正を言い出しているし、理解しがたい強権
金融庁の長官も更迭となった。風が変わりだしたのである。
 
この時にこそ、店を減らすことだけを考え、従来のお客様をないがしろにしたり、優秀な人材を削減することだけを考えず、それを活かす工夫を頭で考えることが、今、最も重要なことなのである。従来の銀行が得意としていた分野を深化させ、足腰の強さを誇ることができる銀行こそ生き残る途であると考える。
  -お客さま、取引先に「信用」されることが存立基盤であり、それを
忘れた金融機関は滅びるしかない-
 
       「小粒化」した銀行経営陣が、その汚名を払拭するためにも、「いざの
とき、上に立つ者の器量が問われる」時と考える。
 

● 間接金融から直接金融への資金需要の減少

       この流れは長期的に継続し、上記のように多少利ザヤや改善されても従来
のような資金需要は復活するのは難しいかも知れない。債券発行の場合も
あるが、高利回りの運用が義務付けられている年金資産を資金源として、フ
ァンドはますます活発になる可能性はある。
 
       しかしながら、それも限界がある。
すなわち、ファンドが力を持てば持つほど、大塚家具で見られるように、その業界に対する関係では素人集団であるファンドが経営に口を挟み、方向違いの経営を強いられる可能性があり、それを嫌う企業経営者も結構存在する筈である。
       ファンドにとっては、口を挟んでうまくいかなかったときは、投資した資
金を売り逃げして回収すればいいのに対して、企業経営者はそうはいかない。
そこに限界が見えるのである。
 
       このように見てくると、従来の間接金融onlyというわけにはいかない
が、構造変化を強いられるほど資金需要はなくならないと考えるのが妥当で
ある。
 
● 金融技術の進展とその限界
        人工知能(AI)やフィンティックといわれる金融技術の進展は著しい。銀行機能の1つの資金決済などが、銀行を介さずに携帯電話端末の間で決済されたり、送金される可能性がある。さらに1部で持て囃されているビットコインなどの仮想通貨の出現が、銀行の存在感を薄くしているのは事実であ
る。
       「昔の銀行の風景」で見るような、事務の非効率化は徹底して金融技術の
進化により廃除され、単なる事務職は、大幅に省力化されるために余剰が出
るだろう。実際に、1昔前には各銀行とも大幅なシステム投資(700億円、
800億円という規模であったが、一体どの部分にいくら費用が掛かって
いるのか、経営陣も説明ができなかったという笑い話がある)を実施し、そ
れなりの効果が図られている
 
       しかしながら、AIにすべてを任せきることは現実的に不可能と考える。少し前に、あるいは今もそうかも知れないが、個人ローンの自動審査が行われている。貸し手としての要件について、個人においてはそれほどの要件はなくAIにある程度任せても対応は可能と考えられる。
しかし、企業に対する審査ではそれは不可能である。要件をすべて入れれ
ばよいではないか?というかもしれないが、貸し手毎にそれぞれの要件に強
弱があり、かつそれが日々刻々と変化しているのである。
最後には人間の脳に勝るものはないと考えるべきである。(実際に人間の
脳の仕組みは未だに未知の部分が結構あるそうだ)
また、仮想通貨にしても、金融庁が、何故早々と認めたのは理解できない
が、もうすでに事故が起こっており(その規模は想像を絶する)、世界のハ
ッカー集団の優秀性から考えて、安心して身を任すことはとてもできるはず
が無い。
 
   ● 総 括
以上、構造的不況業種化してきたと言われる金融業界も、その要因を1つ
1つ見てみると、逆ザヤは永久に続かない間接金融が無くなるはずない、
AIや仮想通貨をそれほど恐れる必要はない、のである
 
       いずれにしても、1990年代からの合従連衡競争のように、この渦に巻き込
まれないで、毅然とした態度で、原点に返った銀行経営をしてもらいたい、
と願うものである。
もっとも、今の経営陣が、強権を持った金融庁の「箸の上げ下ろしまで口
      を挟む」ことに慣れ、「箸の使い方」自体を考えない「小粒化」していれば、
何をか況やである。